2010年11月19日金曜日

フィクションです。第三章

注※この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです


 どうした事だ。

俺は耳を疑った。

目の前の国会議事堂は、いつもと変わらぬ素振りで静かに鎮座している。

だが、遠方から響くのは爆音、銃声、その合間に、かすかに誰かの悲鳴、怒鳴り声。

何だ。


 はっと正気に戻り、隣の同僚を見る。

目が合った同僚は、気まずそうな顔をしていた。

「鏑木さん、行きましょう」

「ああ」

釈然としない思いを抱きながら、俺たちは議事堂の方へと駆け寄って行った。


 野中が、俺と並走しながら問いかけて来る。

「鏑木さん、この国の事、好きですか」

「いきなり何の話だ!」

「いいから答えて下さい、この国の事、好きですか」

荒い息を押しとどめながら、少し考えて俺は答える。

「…俺は日本という国を愛している。だが、この国の腐った現状が俺はなによりも許せない」

野中は、にやりと笑って答えた。

「僕もです。いや、皆そうです。だからこんな事に…」

その時、目前にある大扉が外向きに吹き飛んだ。

通せんぼした柱めがけて、二枚合わせて1トンもある鉄扉がぶつかる、俺と野中は、踵を返して飛び退った。


 大量の砂埃。一体何が起こった。明らかにこれはテロだ。

形を失いそうになる思考を無理矢理抑えつけながら、俺は匍匐の姿勢で議事堂を仰ぎ見た。

倒壊寸前の柱、捻じ曲がって用を足さなくなった鉄扉、やがて…

ガスマスクと戦闘服を身につけ、自動小銃を提げた一団が、舞い止まぬ砂埃の奥から現れた。


 「動くな!」

くぐもっているが鋭い声。

俺は状況を推理する事をやめ、頭の上に両手を置いて、ただ時が過ぎるのを待った。


 「あのー!」

野中が唐突に叫ぶ、ザッ、という気配から、奴に銃口が集中した事がわかる。

「野中!やめろ!何のつもりだ!!」

「我々は、あなた方に敵対する者ではありません!」

「…説明しろ」

「我々は!この国の行く末を憂えております!!本音を言えば、この様な事件を待っておりました!!」

「どうやってそれを証明する」


 野中、やめろ。俺は心の中で繰り返した。

武装集団の正体も、目的もわからないのだ。クーデターかもしれない。あるいは中共が実力行使に踏み切ったのかもしれない。

日本語を喋っているからと言って、日本人とは限らない。殺される。野中、殺されるぞ。


 「その証拠は、私の腰に下がっているこの特殊警棒です!」

「私は、官房長官の三国をこの手で消す為に銃弾の出る特殊警棒を用意しました!どうぞ調べて下さい!!」


 俺の頭が真っ白になった。

銃弾の出る特殊警棒が、そう簡単に用意出来る訳はない。

俺とて、そんな物を作る設備も資金も、知識も無かった。

昨日の朝、「組み立てるだけ」という状態まで持ち込まれたものが届かなければ、こんなものを作るのに何ヶ月かかっただろう。

どういう事だ。それより、野中は…。自分が武装していると告白した様なものだ。


 「調べろ」

「はい」

重厚だがテキパキとした足音。

スッ、と警棒を取り出す音。


 「パン!」

「ふむ…」

「もう一人はどうだ」

「鏑木さんも、国を売るような輩ではありません!」

「根拠は?」

「それは…」


 覚悟を決めよう。

「…俺の特殊警棒も、同じ改造がしてある」

「ほう、二人で用意したのか?」

「いえ、そんな筈はないです!!鏑木さん!?本当ですか!?」

「本当なんだ、調べてくれ」


 背中越しに、奴らの一人が近づいて来るのを感じる。

警棒が抜き取られた。

そして、さっきと同じ銃声。


 「もう一度聞く、二人で用意した訳ではないのか?」

「ええ、昨日の朝、小包が届いて、その中に…」

「俺もだ、嘘くさいと思うだろうが」

「ふん、はっはっは、面白いぞ、これは面白い」

「立て。すまなかったな」


 どうやら助かったらしい。

突然視界に色が戻って来た様だ。

澄んだ冬の空気に、議事堂前の緑が映える。

ゆっくりと立ち上がり、振り向いた俺が目にしたのは、

7人余りの武装集団と、

その武装集団に取り囲まれている、売国議員と言われる3人の男たちだった。


 「ご覧の通り、クーデターと言っても差し支えない」

「だが、今は我々の計画を詳しく話す事は出来ない」

「ああ、勿論だ。勿論だが、俺はその…」

「何だ」

「その男、三国だ。三国を殺さなければ、俺の気が済まない」

「駄目だ」

「何故だ。クーデターと今言っただろう!?」

「まあ落ち着け、今すぐにこの男を殺した所で、日本はどうにもならん」


 俺の心が、自分でどうにもならない程暴れているのを感じる。

この男を、この男を殺さなければ、洋子が、昌江が、愛する皆が。


「馬鹿タレが!!仕方ないから話してやる!まず聞け!」

「我々はこの男らを、まず人質にする。中共へのな」

「そして、まずは悪しき在日外国人、日本を巣食う病患部を一掃する」

「その為には、この男たちがどうしても必要なのだ。頼む。落ち着け。」


 思考が回転して止まらない。納得の行く様な、行かない様な話だ。

第一に、こいつは今「悪しき在日外国人」と言った。それならば…。


「待て、それなら質問だ。日本を愛する在日外国人は、どうするんだ?」

「無論、彼らは我々の同志だ。我々は選民主義者ではない。彼らも我々と共に、生まれ変わる日本の礎となる!」

「どうやってその心根を判断するんだ!大量の在日外国人に対して、今俺たちにした様な事をするのか!?」

「…その必要はない」

「どういう事だ!!」

「いずれ、近い内にわかる」


 行くぞ。そう言うと、リーダー格の男は、俺が呼び止める声も聞かずに隊を率いて歩いて行く。

待て、待つんだ、もっと説明してくれ。彼らの答えはない。

しかし、彼らのうちの一人が少し、こちらを振り向いた。

その隙を突いて、囲いの中から男が一人飛び出した。

三国だ。

三国だ…!

三国の野郎、逃がして堪るものか…!!!


 「待て!三国!撃つぞ!」

「撃つぞ!」

「待って下さい、鏑木さん!!」

半べそをかきながら地面に座り込む、残された二人の議員。

その二人に銃口を向けている隊員を残して、残りの全員が三国に照準を合わせる。

「鏑木さん!!」

「三つ数える前に止まれ!三!二!」

「ミィィィクニィィィィィーーーーー!!!!」

 パン!!


…気がつけば、俺の右手には例の特殊警棒が握られていた。

硝煙、右手に残る反動。三国、三国は…。

三国の背中に、小さな穴が咲いていた。

やがてうつ伏せに倒れる三国。流れだす血。

俺か?俺がやったのか…?


 「はは、はっ、はぁーはっ、はぁーはっはっはっはっは、はあ、ははははッ!!」

「貴様ァー!!何故撃った!!」

どうやら俺は、自分でも無意識の間に、落ちていた特殊警棒に予備弾を詰め、撃っていたらしい。

そして、特殊警棒はかなりの精度を持っていた。


 右頬に衝撃。

俺は昏倒した。

 「鏑木さん!!」

意識を失う直前、野中の声が、遠くから聞こえた。

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