2010年11月19日金曜日

フィクションです。第一章

注※この物語はフィクションであり、実在する人物、及び団体とは一切関係ありません。


「……お父さん?」

「ん?どうした洋子、こんな夜中に」

「お父さんこそ。何してるの?」

「ああいや、ちょっと明日の準備をな、もう遅いし寝てなさい。不安なら側に居てあげようか?」

「いや、いいけど……」

「そうか、そんな年じゃあないものな。ともかく風邪ひかない様にしなさい」

「うん、おやすみ」

「おやすみ、愛してるよ」

私は部屋に戻った。

今は夜中の3時。1階でカチャカチャと音がするから見に行ったら、お父さんが何かを触っていた。

何かは薄暗くてよく見えなかったけど、機械みたいな…。

なんだか辛そうな声だった気がする。心配だ。

それに、愛してるだなんて普段言わない。お父さんは普段、あんなに優しくなかった。

思えば、昨日くらいから急に優しくなった。

何かあったのかな……。


そう思っていたら、部屋のドアがゆっくりと開いた。

「……洋子?」

「お父さん?」

「ああ、すまない。不安にさせてしまったかと思ってね、もしかして寝てたか」

「ううん、大丈夫」

「そうか」


お父さん、本当に最近おかしい。

「ねえ、お父さん、何かあった?」

「ん?何かって何だ」

「最近…、優しいっていうか、私やお母さんと一緒に居る時間増えたよね」

「ああ、まあ何というか…、急にお前たちの大切さに気づいてな」


お父さんは照れくさそうに笑った。

「そうなんだ。…無理してない?」

「大丈夫だよ。洋子や母さんと一緒に居る時間が多い方が、お父さんも幸せだってね。気付いたんだ」

「んふふ、今頃になって?」

「そうだ、今頃になってな。はは、お父さんも馬鹿な男だよ」

「でも私、嬉しいよ」

「そうか、なら良かった。お父さんの同期なんか、みんな子供や嫁さんから嫌われっぱなしだからな」

「そうなんだ」


二人でしばらく笑った。お父さんが笑っている所も、久しぶりに見たかもしれない。

「お父さん、ほっとしたら眠くなって来ちゃった」

「そうか、ならゆっくりおやすみ。お父さんももう寝るよ」

「うん」


お父さんが、私の頭を撫でようとして、ふとその動きを止めた。

「どうしたの?」

「ああ、手に油がな、機械を直していたから」


お父さんは手を、寝間着のズボンでごしごしと拭いて、私の頭を優しく撫でてくれた。

「……お父さん」

「…何だい洋子」

「ずっと、お父さんと一緒に居たいな……」

「ああ、お父さんも、そうだといいなと思うよ」


お父さんのその時の声は、凄く悲しげだった。

眠りに落ちていく中で、私の心に不安の種が一つだけ、そっと残された。

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