注※この物語はフィクションであり、実在する人物、及び団体とは一切関係ありません。
「……お父さん?」
「ん?どうした洋子、こんな夜中に」
「お父さんこそ。何してるの?」
「ああいや、ちょっと明日の準備をな、もう遅いし寝てなさい。不安なら側に居てあげようか?」
「いや、いいけど……」
「そうか、そんな年じゃあないものな。ともかく風邪ひかない様にしなさい」
「うん、おやすみ」
「おやすみ、愛してるよ」
私は部屋に戻った。
今は夜中の3時。1階でカチャカチャと音がするから見に行ったら、お父さんが何かを触っていた。
何かは薄暗くてよく見えなかったけど、機械みたいな…。
なんだか辛そうな声だった気がする。心配だ。
それに、愛してるだなんて普段言わない。お父さんは普段、あんなに優しくなかった。
思えば、昨日くらいから急に優しくなった。
何かあったのかな……。
そう思っていたら、部屋のドアがゆっくりと開いた。
「……洋子?」
「お父さん?」
「ああ、すまない。不安にさせてしまったかと思ってね、もしかして寝てたか」
「ううん、大丈夫」
「そうか」
お父さん、本当に最近おかしい。
「ねえ、お父さん、何かあった?」
「ん?何かって何だ」
「最近…、優しいっていうか、私やお母さんと一緒に居る時間増えたよね」
「ああ、まあ何というか…、急にお前たちの大切さに気づいてな」
お父さんは照れくさそうに笑った。
「そうなんだ。…無理してない?」
「大丈夫だよ。洋子や母さんと一緒に居る時間が多い方が、お父さんも幸せだってね。気付いたんだ」
「んふふ、今頃になって?」
「そうだ、今頃になってな。はは、お父さんも馬鹿な男だよ」
「でも私、嬉しいよ」
「そうか、なら良かった。お父さんの同期なんか、みんな子供や嫁さんから嫌われっぱなしだからな」
「そうなんだ」
二人でしばらく笑った。お父さんが笑っている所も、久しぶりに見たかもしれない。
「お父さん、ほっとしたら眠くなって来ちゃった」
「そうか、ならゆっくりおやすみ。お父さんももう寝るよ」
「うん」
お父さんが、私の頭を撫でようとして、ふとその動きを止めた。
「どうしたの?」
「ああ、手に油がな、機械を直していたから」
お父さんは手を、寝間着のズボンでごしごしと拭いて、私の頭を優しく撫でてくれた。
「……お父さん」
「…何だい洋子」
「ずっと、お父さんと一緒に居たいな……」
「ああ、お父さんも、そうだといいなと思うよ」
お父さんのその時の声は、凄く悲しげだった。
眠りに落ちていく中で、私の心に不安の種が一つだけ、そっと残された。
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